hyuga_kabocha(まっきー)のブログ

Twitterに書ききれない長文投稿用ブログです。

『ダーウィン・ヤング 悪の起源』日本初演感想(2023.6.10)

ダーウィン・ヤング 悪の起源』日本初演を観ての感想です!

シアタークリエ ミュージカル『ダーウィン・ヤング 悪の起源』 (tohostage.com)

初日が開いて最初の週末、2023年6月10日(土)のマチソワで、大東ダーウィン版と渡邉ダーウィン版をそれぞれ観ました。

 

Twitterではそれなりにネタバレに配慮して感想を書いた

https://twitter.com/hyuga_kabocha/status/1667379226872532992?s=20

 

のですが、ここからはネタバレを気にせずに書くので、以下ご注意ください。

 

 サブタイトルになっている「悪の起源」は、第1地区から第9地区までの「出自(血)を元にした社会的な差別構造」であり、この物語はそこから発生した「罪」の起源の話かなと思いました。祖父・父・孫の三世代だけで見ると当然祖父のラナーが、ラナーの罪が起源ですが、ラナーにその罪を犯させたのは、革命のために利用しようとした大隊長、そしてその革命を引き起こした社会構造ですし。

 

 ヤング家は、代を重ねるごとに罪が重く闇が深くなっていく。種の起源の「進化」にかけて言うなら、代を重ねるごとに罪が「深化」してしまっている。

  ラナーは自分を守るために、

  ニースは自分と父を守るために、

  ダーウィンは自分と父と祖父を守るために、罪を犯す。

 ニースの罪が明らかになると必然的にラナーの罪も明らかになるから、ダーウィンは祖父と父、2人分の罪を隠さなければならなくなる。そしてその罪は下の世代からしか見えていない。

 

 意思とは関係なく次の世代へと伝わる赤色(血の色)のフードは、「血縁」とそれに伴う罪の象徴かなと思いました。でも、そもそもの罪の起源は大隊長(養父)とラナー(養子)なので、実際の血縁よりも「父と息子」というものの間で伝わっていくものがテーマなんでしょうね。みんな言っているように、びっくりするくらい母不在の物語ですし。Twitterで見た「父親に雁字搦めの息子大展覧会」の言葉も「主人公がニースでヒロインがラナー」もほんとそれ。

 ラナーは、息子が変わってしまったのは心酔していたジェイ・ハンターに今も心奪われているからだと思って嘆き心痛めているわけだから、ニースはもうラナーに本当のことを言って共犯にしちゃえ、優しい可愛い息子が自分のために殺人を犯したというのはショックだろうけど、それだけ今も昔も息子がジェイではなく自分を愛しているとわかれば喜んでラナーは罪を共に背負うだろうし、ニースはその愛と罪を父と分け合えるし、そのほうがラナーもニースも幸せなんじゃないの? 誤解したまま「あの時僕が死ねば良かった」なんて息子の台詞を聞くよりずっと幸せじゃない??? ラナーの写真1枚を奪うために人を殺し、1枚のデータを削除するためだけに教育庁長官に上り詰めるまでの努力をしたのに、人生をラナーのために使ったのに、誤解したままのラナーも誤解されたままのニースもあまりに哀しくないですか?????こんなに相思相愛なのに!!!!! ラナーに全部話してニース!!!!!!!!と思ってしまいました。

 

 そんなラナーとニースの愛のために殺されたジェイ・ハンターはとなるけど、ジェイはジェイであれだけ明日の父親参観でばらしてやるってニースを脅しておいて、赤いフード着て夜中に訪ねてきた様子のおかしいニースに「そんな顔の君は初めて見たよどうしたんだ」じゃないよどれだけ追い詰めてるか自覚ゼロなのめちゃくちゃ怖いよ。「罪は悪、すべて暴かなければならない。それは当然の正義」みたいな考えだから自覚ゼロなの?初日感想で「2幕で突然デスノート始まる」って読んで何のこっちゃと思いましたけど、ジェイのソロが来てあっこれだわデスノートの月だわと納得しました。頭が良くて正義感が振り切れてて自分に自信のある16歳あるあるなの?自分は罪を犯さない、すべての罪と悪は裁かれなくてはいけないという自信と信念がすごい。ジェイは罪を裁くことを、ルミは罪を暴くことを正しいと信じて疑わない、それがどういうことを引き起こすかまではわからない16歳。罪を暴くためにさらっとダーウィンに罪を犯させようとするルミも怖い。そしてそれはそれとして、パスワードが数字4桁とか国のセキュリティがザルっぷりがひどいし、ジェイ殺害の重要証拠のカセットテープに気づかずにバズ・マーシャルに返却した警察もさすがにひどい。

 

 ハンター家はハンター家で、父と子の関係のこじれ方がすごいんですけどね。どの家でもどの世代でも「子の罪の起源は父」であり、それの積み重ねってことなのかな。ヤング家の3世代を見て「全部ラナーが悪い」「罪の起源はラナー」という感想をよく見るけど、それを言うならラナーの「父」の大隊長がどう考えても罪の起源でしょうというのはずっと思っています。ハンター家もジェイとジョーイの父のハリー・ハンターが全部悪いみたいに見えるけど、ハリーの「愛と反骨心を間違えた」の台詞から察するに、ハリーにもまた反発する「父」がいたんでしょうね。この家でも「子の罪の起源は父」が世代を重ねている。

 

 そんな中で、第1地区でアル中の父を持ちながらも、映画監督として自分で身を立て結婚してレオ・マーシャルという息子ととても良好な「父と息子」関係を築いていたのに、父からの悪の連鎖を断ち切ったのに、息子を殺されてしまったバズ・マーシャル……。16歳のバズが、「立派な戦場写真家の父」と「プライムスクール合格」を持つジェイに嫉妬して、ジェイの第7地区出身の母親について口にしてしまったところから仲良し3人組の関係が少しずつ狂い始めて30年前の事件につながっていったところはあるけど、これはバズだけが悪いわけではないからなぁ……。

 でもこうして見ると、ジェイの死を招いたのはジェイの父が撮影した写真、レオの死を招いたのはレオの父が作ったカセットレコーダーと、「子の災いの起源も父」なんですね。これこそ本人が悪いものではないのですが。

 

 祖父と父の重なった罪の下、現在を生きてより重い罪を背負うことになったダーウィン、ただ1人すべての罪を知るダーウィンがタイトルロールなのは納得だけれど、世代とともに罪もまた重なっていく話として2世代目のニースが話的にも見せ場的にも重要で、実質主役みたいな重さでした。ニースの矢崎広さんは初めましてだったんですが、46歳のスーツ姿の教育庁長官の威厳と怯えと苦悩と慟哭、16歳の父親大好きほんわかボンボンからの悲しい豹変、これすごい勢いで沼落ちが出るやつでは。もちろん、2世代目と3世代目の罪が完全に重なるクライマックスシーンや3世代のエンディングで全く芝居負けしないダーウィン2人もさすがのタイトルロールの素晴らしさです。

 

 ダーウィンは、追悼式典出発前にラナーに抱き着つくときの「ぎゅ❤」が大東ダーウィンオリジナルっぽくて、「恐ろしい子……!」となっています。大東ダーウィンにつられて「ぎゅ❤」とデレデレする禅ラナーとセットで映像に残してください。ハグするにもマイクからぼふっと音がするくらいの勢いで突撃する大東ダーウィンは天性の愛され天使要素のあるダーウィン、渡邉ダーウィンは普通の子が本当にたっぷり愛されたことでここまで素直に真っすぐ優しく愛らしく良い子に育ったダーウィンって感じかな。どちらもとても良いぽわぽわおぼっちゃんで、エンディングが際立ちますね……。

 

 ダーウィンウィンザーノットを教えるニース、自分はラナーにしてもらえなかったこと、自分で身につけざるをえなかったものを、息子にはしてあげられるのは喜びなんだろうな。高等行政を担当する第1地区男性の象徴でもあるウィンザーノット。第1地区で最も成功した実業家でありながらネクタイは一度もしたことがないというラナー。ラナーが傷を隠しネクタイをしていればジェイに気づかれることも無かったのではと最初は思いましたが、フードの紐で大隊長を絞め殺した記憶から、ラナーは自分の首にネクタイを捲くことも息子の首にネクタイを捲くこともできなかったのかなとも。第1地区のヤング家の者になりながらネクタイ必須な行政官ではなく実業家を選んだというのもそれかもしれない。ニースも同様の記憶を持っているけど、写真を削除する権限を手に入れるためにはネクタイを捲かざるを得ないので乗り越えたか……。「第1地区のネクタイ」「第9地区のフードの紐」は、どちらも首まわりにあり、それぞれの地区を象徴するという対になるアイテムかなと思いました。

 

 時折現れる黒フーディー軍団は、たぶん「罪」を表現しているのかなと。過去の罪、新たな罪の気配とともに現れてまとわりつく。第9地区の12月革命の象徴であり罪の起源でもあるフード。

 

 12月革命時に、孤児たちを中心に最下層の人々がフーディーとして組織化される中、ただ1人、赤いフードで誰よりも先頭に立って戦った16歳のラナー。日替わりアドリブコーナーで「何歳だ!」「16歳です!」「58!?」「16です!」「見えないな!」という年齢いじりが定番化しつつあり盛り上がってはいるようですが、登場シーンで塀に座っているシルエットはガブローシュかなと思うくらい少年だったし、「父さん!」「大隊長!」の声も、必死に走る姿も、演劇的に16歳で何ら問題ないので変にいじらなくてもとは思うのですが、ウケてるし、TdVや笑う男の日替わりアドリブのノリで続いて禅さんの誕生日には59歳ネタになるんだろうな。ここは中の人ネタとは言えまだギリギリ大隊長とラナーの会話で収まってるんですが、その後の染谷ジョーイの「9歳です!」は客席にわざわざ向き直って客席に向かって言っていて、キャラ設定として第四の壁を破ってくるルキーニやチェは大好きだけどそうでないキャラに笑いのために破らせるのは若干やりすぎじゃないかなぁとも。シリアスな作品だから変な緊張の破り方をしないでほしいというのと、シリアスな作品だから少しぐらい笑いを入れたいというのは、もう好みの問題なのかな。

 

 とにかく禅ラナー16歳は16歳だし、歌いながら周りを鼓舞しながら階段降りてくるカリスマセンターっぷりがすごい。歌が声が台詞が高音(若い)が低音(かっこいい)がひたすら良い。闇のアンジョルラスと言われつつあるけど、「闇の」というにはあまりに純真だし、「アンジョルラス」と呼ぶほど世界を変えたいと思っているわけではなく、ただ目の前の父の助けになりたい少年。でも確かにセンターでのカリスマっぷり輝きっぷりはアンジョルラス。そんなラナーが大隊長を殺し情報を渡して革命を崩壊させたのは、父に裏切られた絶望からか、使い捨てられる運命のフーディーたちを救おうとしたのか、その両方か。結果的に鎮圧の過程でフーディーは殺害され、失意のラナーは最後の望みで第1地区の革命協力者・ヤング家へ。そしてヤング家の前で倒れこんだ次のシーンの最初には76歳としてソファに座って出てくるの裏でどんな早変わりしてるの。びっっっくりした。

 

 46歳ラナーは登場シーンが少ないんですけど、唯一のラナーとニースの幸せな父子タイムですね……ああなんて仲の良い幸せな父と息子……(泣)やっぱりニースは本当のことをラナーに言って2人で罪を背負って残りの人生を共に生きたほうがよくない……?

 

 76歳ラナーは、ロマンスグレー大好き!禅さん大好き!の私には劇薬です。銀髪で動き微笑み悲しみ美しく立つ姿を観て死ぬかと思った。さらにはフランツで沼落ちした私は、息子のニースとすれ違っていくシーンは完全に「フランツ……禅さんこういう父親が本当に上手い……」とハプスブルクの幻を見ながら見とれていました。しかもこちらの父と息子のほうがより愛が深いからよりこじらせも大きい。あっ、「あの子(ダーウィン)の声がいいのはお前(ニース)に似たんだな」って言ってましたけど、息子も孫もまとめて貴方に似たんだと思いますよ!!!!!

 そして最後のレオ・マーシャルの葬儀シーンのラナー!!! 銀髪!全身黒!深青のストール!手には追悼の白い薔薇!殺す気か!どうもありがとうございます!!!!!!! 観終わってからもずっとこのシーンの禅さんラナーの姿が頭から離れません。助けて。ありがとう。助けて。もっとください。

 

 おかしくなってきたのでひとまずこの辺で終わります。おかしくなるから石川禅のラナー・ヤングの感想は最後にしたんですけどね。

 

 そうそう、ソワレでは韓国オリジナルプロダクションの方が観劇していたため蒼くんの挨拶があり、

 蒼くん「この楽しい作品を」

 客席&舞台上(ざわざわざわ)

 内海くん「怖い怖い怖い!俺、殺されてるし!」

 矢崎さん「……楽しかったね……」

 禅さん「座組はとても楽しいですよ!!!」

という記憶に残る挨拶が生まれました。

 

 他の人の感想や考察を読んで思ったことがあったらまた書き足すかもですが、ひとまずこれで。どうもありがとうございました。

 

※追記

第9地区にダーウィンが来たとき、レオはこっそりダーウィンの写真を撮ってたんですね。他の人の感想を読んで初めて気づきました……

この世界の警察はジェイ殺害の決定的証拠テープをバズに返すような警察なので、このレオのフィルム?データ?が残って、ダーウィンの次の世代の罪の起源になることまで確定じゃないですか……ここまで示して終わってたんだ……

こんな大事なポイントを見落としていたの自分でちょっとショックだったのですが、Twitterのおかげで気づけましたありがとうございます。

 

ダーウィン・ヤング 悪の起源