hyuga_kabocha(まっきー)のブログ

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「笑う男」(19.4.20)感想と物語背景メモ

 2019年4月20日(土)昼公演の『笑う男』を観てきました。
に感想を連ねていますが、ここではさらに言いたいことをどんどん書いていきます。
 これだけツイートしておいて今さらですが、この記事もネタバレ有りで、原作や映画のことも絡めながら好き放題書いていきます。まとまり無いので、適宜つまみ読みしてください。
 原作と映画のあらすじがごっちゃになっているものもあると思いますし,歴史や原作の理解などで、間違いや勘違いがあったらすみません。
 以下、随時更新です。
 
物語の背景 : 歴史と宗教と登場人物
 ざっくりと全体的な感想を言うと、原作から見事に歴史と宗教の話を取り去ったな、と思いました。原作を舞台の尺にするとそうなるんでしょうね。
 
★デヴィッド・ディリー・ムーア卿 
 それにより大変なことになったのが、デヴィッド・ディリー・ムーア卿。原作では国王に気に入られ、役職も与えられ、ジョシアナにも好かれ(ジョシアナは縛られる「結婚」が嫌なだけ)、家も栄えていて、輝くばかりのエリート貴族です。
 
 原作ではジェームズ2世(カトリック)とクランチャリー卿(ピューリタン・共和政主義者)が政治的・宗教的に対立した結果、ジェームズ2世がクランチャリー卿を捕えて「お前の嫡男をコンプラチコに売り飛ばしてやる」と言って絶望させた後に処刑します。そしてファマン(グウィンブレン)を売り飛ばしました。一方、デヴィッドの母親は王に気に入られていたため、その息子のデヴィットも可愛がられます。
 
 それが、「ジェームズ2世」の要素をカットしたがためにグウィンプレンの誘拐犯になり、そのためにわかりやすい悪役設定(財産を食いつぶしジョシアナの財産と体目当ての没落貴族)になるというデヴィッド……。
 
コンプラチコ 
 コンプラチコも「手当たり次第に誘拐する犯罪者集団」というよりは「商品が人間の商人集団」です。
(現在の価値観での善悪は横に置いておきます.。当時ももちろん善しとされていたわけではなく、治安回復のために後に追放されますが)。
代金を支払って子を買って、中国由来の医療技術などで「改造」して、高値で売る。よく考えたら、当時、子の口を裂いてその後も元気というのはかなり高度な医療技術です。もちろん幸運な成功例なんでしょうけど。
 そして、コンプラチコは国籍はバラバラながら全員カトリックという共通点もありました。これゆえ、ジェームズ2世との結びつきがあり、王に利用されていた、という設定です。
(※モデルとなった人身売買集団はあったかもしれませんが、「コンプラチコ」とその設定はユゴーの創作です)
 
 ところが名誉革命でジェームズ2世が追われ、ウィリアム3世とメアリー2世が迎えられて2人の共同統治となります。メアリー2世はジェームズ2世の娘ですが、母親がプロテスタントであったこと、当時のイングランドでは「カトリックの王」に対する印象が悪かったことから、伯父のチャールズ2世の命で、妹のアンと共にプロテスタントとして育てられました。そのため、ジェームズ2世追放後の王として選ばれます。
 
 このメアリー2世たちによって、ジェームズ2世とつながりのあったコンプラチコは治安回復の名目で国外追放されることになり、コンプラチコの出航のシーンにつながります。
また、同時に浮浪児など子どもの保護を定める法律ができ、不審な子どもを連れていると職質みたいなことをされたようです。逃げるコンプラチコがグウィンプレンを置いていったのはこのせい。
 
 
★アン女王
 そしてウィリアム3世とメアリー2世の死後、王位についたのが作中に登場するアン女王。
 ミュージカル的に言うと、「レディ・ベス」ことエリザベス1世でテューダー朝が途絶えた後の王朝がスチュアート朝で、このスチュアート朝最後の君主がアン女王です。ベスが1559年生まれ、アンが1665年生まれなので、だいたい100年後くらいの女王ですね。
 アン女王は結婚していて、夫とも仲が良く、子を何人も身ごもったのですが、ことごとく流産・死産を繰り返します(抗リン脂質抗体症候群という自己免疫疾患だったと推定されています)。姉のメアリー2世も同様で、2人とも跡継ぎがいなかったため、スチュアート朝は断絶します。
 
 
★紅茶
 ワペンテイクのワンポイント講座で「紅茶」とあったので、調べたものを載せておきます。
 17世紀半ば、ちょうどアン女王が生まれたころに、アンの伯父のチャールズ2世と結婚したポルトガル王女・キャサリンが、大量の砂糖と紅茶を持参して毎日飲みました。これをきっかけに、イギリス上流階級で紅茶が大流行し、後のイギリスの紅茶文化につながっていきます。逆に言うと、この時までイギリスに紅茶の習慣はあまりなかったようです。
 そしてこの頃から19世紀初めまで、イギリス東インド会社は茶の輸入を独占し、イギリスに莫大な富をもたらします。
 貴族たちによる豪華なガーデンティーパーティーのシーンは、おそらくこのあたりが背景。
 
★その他
 17世紀半ばのヨーロッパは、小氷期により飢饉とペストと魔女狩りが横行して不安定だったようです。17世紀末にはようやくそれも落ち着きます。グウィンプレンの幼いころ、ウルシュスも生活が厳しそうなのはこの飢饉の名残があるくらいの時期なのかなと。グウィンプレンの成長後の一座がそこまで貧しいように見えないのは、一座が成功しているからか、庶民の生活が上向いているからなのか。
 
登場人物についての感想・妄想はこちらの記事で↓